「『怒る回数を減らせ』って言ったって、子どもはいろいろ悪いことするし、そんなの無理だ」と考える大人の方もいることでしょう。
そんなあなたのために、怒る回数を減らす、あるいは親子のコミュニケーションを変える、心理的なテクニックを一つ紹介しましょう。「私」ゲームと言います。
例えば、学校へ行っている子どもが、なかなか家に帰って来なかったとしましょう。
お母さんとしては、「何かあったんじゃないか」とあれこれ心配します。やきもきします。
夕方遅くなって、「学校へ電話しようかしら」などと考え始めた頃に、ようやく子どもが帰ってきました。
さあ、お母さんの怒りが爆発します。
「こんなに遅く帰ってきて、あなた今何時だと思ってるの! あなたそれでいいと思ってるの!」
子どもの方は、お母さんの怒りの攻撃を受けて、防御の鎧を固めてしまいます。
「関係ないでしょ」「いいでしょ、別に」
捨て台詞を残して、自分の部屋へ引っ込んでしまいます。
こうなってしまうと、親子の対話も何もないですね。不幸なコミュニケーションになってしまいます。
なぜこういうやり取りになってしまうのでしょうか。
それは、最初にお母さんの中で「気持ち」と「行動」がすれ違ってしまったからです。
本当のお母さんの気持ちは、愛する子どもに何かあったんじゃないかと「心配」だったのです。
ところが、いざ子どもを目の前にすると、子どもを「攻撃」して、責めてしまいました。
気持ちは「心配」なのに、表の行動は「攻撃」になってしまっています。自分の中ですれちがってしまったので、子どもともすれちがってしまったのです。これではいいコミュニケーションになりません。
じゃあ、どうするか。
ここで、お母さんのセリフに注目してみましょう。
「こんなに遅く帰ってきて、あなた今何時だと思ってるの! あなたそれでいいと思ってるの!」
このセリフで気がつくのは、主語が「あなた」であることです。主語が相手(子ども)なのです。
相手を主語にして物を言うと、相手を責める言葉になりがちです。攻撃になってしまうのです。
そこで、主語を「あなた」から「私」にしてみます。
「こんなに遅く帰ってきて、私心配しちゃったわよ」
「私」を主語にすることで、相手への攻撃ではなく、素直な自分の気持ちの表現になっています。気持ちと行動がちゃんと一致しています。
これなら子どもの方も、「ああ、そんなに心配してたんだ」とお母さんの気持ちをそのまま受け取れますから、
「ごめんなさい」
と素直に謝る事ができます。
「私」ゲームは、心理学・カウンセリングの一分野「アサーション・トレーニング」(あるいは「アサーティブ・トレーニング」)のテクニックの一つです。相手を攻撃せず、自分にこもるのでもなく、自分の伝えたいことをそのままちゃんと伝える手法です。これは親子関係だけでなく、夫婦・家族・一般の人間関係でも有効です。ぜひ試してみてください。
アサーション・トレーニングについては、おもしろい入門書がありますので紹介します。
パット・パルマー「ネズミと怪獣とわたし―やってみよう!アサーティブトレーニング」
子ども向けの絵本で、書き込みしながらいくつかのトレーニングをやっていく構成になっています。やさしい雰囲気のイラストと深い内容で、大人にもとてもおもしろい本です。
この本とシリーズになっている以下の本もお薦めです。やはりやさしい絵本ですが、内容はとても示唆に富んでいて、勉強になります。
パット・パルマー「自分を好きになる本」
パット・パルマー「おとなになる本」
パット・パルマー「夢をかなえる本」
また、これまで何度も挙げている吉田賢治郎さんのブログ「けんじろうとコラボろう!」では、以下の実践が紹介されています。
お父さんの「独り言ブログ」〜怒らない子育ての実践
ある一家のお父さんが、家族だけが見られるブログ上で、奥さんや子どもに対して自分が思っていることをいろいろ書きこんでいます。これはまさしく「私」ゲームと通じていると思います。子どもを怒って攻撃するのではなく、自分の気持ちをそのまま表現して伝えているからです。きっといい家族になれることでしょう。