SHIROのIchigoJam日記

マイコン「IchigoJam」(イチゴジャム)の電子工作とプログラミングをメインに

ネット依存報道について(1)

また日記の間が空いてしまいました。すみません。
8月1日付で、報道各社から「ネット依存の中高生が8.1%。全国で推計51万人」というニュースが流れました。

毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20130802k0000m040048000c.html
NHKニュース(動画)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130801/t10013465111000.html

方々で話題になっているようですが、こうしたニュースは、「どう読み取るか」「どう解釈するか」という「メディアリテラシー」「情報リテラシー」が大事です。
個人的な意見ですが、今回のニュースでは、取り上げるメディアの側に情報リテラシーが足りないように思います。
以下、長くなりますが、私が疑問に思う点などを挙げます。

●「8個の質問のうち5個以上がYesだったらネット依存」という判定は正しいのか?

報道されている「8.1%」という数字は、10万人の中高生への調査で「8個の設問に対して5個以上で『はい』と答えた」割合です。しかし、そんな簡単にネット依存の診断ができるものでしょうか?
この手法はキンバリー・ヤング氏が作ったもので、ネット依存の分野では(他に基準が無いため)各所でよく使われているようです。
詳細は「NET ADDICTION」(http://netaddiction.com)というサイトに説明がありますが、そこには以下のように書かれています。

Meeting five of the following symptoms were considered necessary to be diagnosed.
日本語に訳すと「次の兆候に5つ該当したら診断を受ける必要があると考えられる」です。
つまり健康診断で言う「要精密検査」のようなもので、「診断を受ける必要があるかどうか」を判断するためのスクリーニング(振り分け)手法に過ぎないのです。これで「ネット依存である」という診断が確定する訳ではないのです。
こうした基本的なことを確認して、ちゃんと報道しているメディアがあるでしょうか? 私が知る限りでは1つもありません。

●ネットゲーム依存だけがなぜクローズアップ?

上記のNHKのニュース動画の中で、ネットゲーム依存の例がクローズアップされています。
しかし恐らく「8%」の中にはYouTubeなどの動画視聴や、LINEなどのコミュニケーションで利用している子どもも多く、ネットゲームは一部に過ぎないと思われます。そうした個々の実態がちゃんと取り上げられていない、と私は感じます。

●表の現象だけでその原因や意味は判断できない

上記の8個の設問の他にも質問があったようで、「直近の30日間で眠りに就きにくいことがあったか」などの質問で、ネット依存度が高い子どもほど回答数が多かった、という結果だったそうです。
しかし「ネット依存度が高い子ども達ほど『眠りに就きにくいことがあった』と答えた割合が多い」という結果が出たとしても、そこから「ネットに依存していると、眠りに就きにくくなる」と結論づけるのは誤りです。
この結果から言えるのは、あくまで「『ネット依存度』(Aとします)と『眠りに就きにくい状態』(Bとします)には相関関係がある」ということだけです。つまり「AとBの間には関係がある」と言えるだけで、「Aが原因でBが起きる」という因果関係は証明できないのです。
もしかすると、全く別の原因「X」があって、AとBはXから生じた2つの結果なのかもしれません。同じ原因Xから生じた2つの結果なら、AとBの数値の間に関係があるのは当たり前です。
例えば、日頃の生活で不安やストレスがあって、なかなか眠りにつけず、その時間を潰したり不安を解消するためにネットをしていたのかもしれません。そうしたケースは物理的には「長時間ネットをしている」状態で、調査でも「ネットが無いと困る」と回答するでしょうが、内実は全くネットの問題ではなく、不安やストレスの問題になる訳です。そうした実態は、少なくとも今回のような調査ではわかりません。

厚生労働省の意向?

これは半分邪推になりますが、調査の主体が厚生労働省の研究班なので、「〜は危ない」と危険性や健康被害を訴える結果になりやすいと思われます。
(そうすれば「ネット依存症対策事業」などと銘打って、医療関係の予算が取りやすくなるでしょうから)。
これが総務省経済産業省の調査だったら、違う解釈になった可能性があります。
なお、この結果を出した「研究班」は、報道によると日大医学部の大井田隆氏が代表者とされています。
大井田氏の名前で厚労省のサイトを検索してみると、以下のページが見つかりました。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000036w7i-att/2r98520000036wi1.pdf
どうも「未成年者の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究」をする研究班の代表の方のようです。
(検索でこれしか出てこなかったので、今回の「調査」をしたのは他の研究班である可能性もあります。また、これは昨年度事業のページで、今年度はまた別かもしれません)。
所属する日大の教員情報ページによると、
http://kenkyu-web.cin.nihon-u.ac.jp/Profiles/47/0004685/profile.html
大井田氏は医学系(公衆衛生学)の分野の人で、依存症研究では第一人者なのでしょうが、ネットの問題とは直接関係無い人のようです。

●一次情報が無い

本来、こうした報道について判断するには、まずは元の情報(一次情報)を当たるのが鉄則です。今回の例なら、「厚生労働省の研究班が発表した」という発表資料です。
報道はあくまで二次情報ですから、一次情報から報道に至るまでの間に、何らかの誤解・齟齬・改変などがあるかもしれません。
ところが、厚労省のサイトを検索しても、そのネット依存に関する研究発表の資料が全く見つかりません。これだけ大きく報道されているのに、発表資料が無いのはどういうことでしょうか。これでは詳細が何ともわかりません。

★ところが…

報道があってから数日間はこのように考えていたのですが、その後新たな情報が出てきてビックリしました。それについては稿を改めて書きたいと思います。

→こちらに書きました。